2018-09-02

気管支動脈の解剖

6-8月は喀血の患者さんが立て続けに入院となり、緊急対応を迫られる日々が続きました。麻酔科医と協力しながらダブルルーメン挿管チューブを用いた気道確保やブロッカーカテーテルの挿入を行うこともありました。止血処置に関しては、当院では循環器科医が気管支動脈塞栓術を施行してくれます。他科のフットワークがよく、本当にありがたい限りです。

ところで、気管支動脈塞栓術を行うにあたり、気管支動脈の解剖学的な知識が必要になります。一度おさらいしておきましょう。

ちなみに、気管支動脈の解剖については、古くはCauldwellやBotengaらのまとめがあるようですが、古すぎて入手できなかったため、今回は、Ittrichらによるreviewを参考にまとめました。(H . Ittrich et al. Rofo. 2015 Apr;187(4):248-50)

・気管支動脈は気管支や肺、肺動静脈、横隔膜、縦郭臓側胸膜、気管支周囲のリンパ節等へ栄養血管で、肺循環の約1%を担う。

・気管支動脈は主気管支に沿って走行し、肺門から侵入し気管支~呼吸細気管支レベルに分布するが、毛細血管網を経て気管支静脈になり肺静脈に入り左房に流入する(=解剖学的シャント)。なお、肺門より中枢レベルを還流している気管支静脈は奇静脈、副半奇静脈より上大静脈を介して右房に流入する。

0.61%と非常に稀な頻度だが、気管支動脈と冠動脈のシャントが観察されることがあり気管支動脈塞栓術の際に重篤な合併症に繋がる。

・気管支動脈の起始部は、第5-6胸椎の高さ(ちょうど透視で見ると左主気管支が大動脈と交差する高さ)にあることが多い。起始部の径は1.5mm以下、気管支肺区域で0.5mm以下であり、2mm以上であれば異常血管と言える。

・気管支動脈の分岐はバリエーションが多いが、原則として、
 右気管支動脈は、右第3肋間動脈と共通幹(ICBT)を形成することが多い。
 左気管支動脈は、ほぼ大動脈から直接分岐する。

・気管支動脈の分岐パターンを、下図A~Dに示す。

 A:肋間気管支動脈幹(ICBT:intercostal bronchial trunk)から右気管支動脈と肋間動脈(ICA:intercostal artery)が分岐。左気管支動脈は大動脈から2本分岐する。(右1 左2  40.6%)
 
   B:肋間気管支動脈幹から右気管支動脈と肋間動脈が分岐。左気管支動脈は大動脈から1本だけ分岐する。(右1 左1  21.3%)

   C:肋間気管支動脈幹から右気管支動脈と肋間動脈が分岐し、さらに大動脈からも直接、右気管支動脈が分岐。左気管支動脈は大動脈から2本分岐する。(右2 左2  20.6%)

   D:肋間気管支動脈幹から右気管支動脈と肋間動脈が分岐し、さらに大動脈からも直接、右気管支動脈が分岐。左気管支動脈は大動脈から1本だけ分岐する。(右2 左1  9.7%)

2018-09-01

VRCZとEBの眼症状


呼吸器内科医がよく使用する薬剤の中で、眼症状を起こしうる薬剤が2つあります。それぞれの特徴をまとめておきましょう。



ボリコナゾール(VRCZ)

国内多施設共同試験におけるデータによると、羞明が25%、視覚異常 24%、霧視 5%、網膜出血 4%と比較的高頻度で生じる。特に投与初期(1-7日目)に多く認められ、一過性かつ可逆性で、特に処置を必要とせず消失する(二木ら 日本化学療法学会雑誌 2005 Nov;53(S-2):32-50)。網膜における機能的な作用により生じると考えられるが、機序はよくわかっていない。視覚異常に伴って(特に閉眼時に)幻覚が見えることもあるようだが、血中濃度との関連性は認められなかった(Sakurada H. et al. Pharmazie. 2016 Nov 2;71(11):660-664)。入院患者さんだとせん妄を引き起こす可能性もあり、注意が必要。また、不安を和らげるため、開始前に視覚障害の出現について言及しておくのがよい。



エサンブトール(EB)

1-3%に視神経障害を起こす。投薬後3か月から起こり得るが、半年‐1年以内(平均7か月)に多くみられる。亜急性の進行で両眼の視力低下(小さな文字が見えにくい、かすむ、暗いなど)、中心性暗点を呈する。頻度は、低いが色覚障害を呈することもある。早期に発見すれば可逆的であるが、発見が遅れ高度に進行すると不可逆的。よって、全例、12か月毎に定期視機能検査を行う必要がある。リスクファクターとしては、高齢者、糖尿病、腎機能障害、貧血、低栄養、アルコール中毒、亜鉛欠乏などが挙げられる。(参考文献:肺MAC症診療 Up to Date-非結核性抗酸菌症のすべて 南江堂)