2018-10-23

ABPA診断基準 比較まとめ

ABPA(allergic bronchopulmonary aspergillosis)は、喘息患者に合併することのあるAspergillusに対する過敏性免疫反応を基盤とする疾患で、I型アレルギーとⅢ型アレルギーの両者が関与している言われています。稀ですが難治性喘息の場合、忘れてはならない病態です。

診断基準については複数ありますが、RosenbergやGreenbergerらのNorthwestern大学アレルギー科グループの研究者による古典的な診断基準が有名で、ずっとそれを下に診療をしてきました。私が不勉強なだけかもしれませんが、あまり知識のup dateをはかっておらず、近年、新しい診断基準が提唱されていることを知りました。AgarwalらインドのグループによるISHAM(International Society for Human and Animal Mycology)より2013年に提唱された診断基準(Clin Exp Allergy 2013;43:850-73)で、下の表に示します。Rosenbergらの診断基準に比べるとずいぶん簡略化されましたし、即時型皮膚反応についても、特異的IgEで代用出来ますし、沈降抗体についても、より陽性率の高い特異的IgGで代用することが出来る(※)のが良いですね。

※ABPAにおけるアスペルギルス沈降抗体(オクタロニー法)の感度は27-87%(Mycoses 2017;60:339, J Asthma 2013;50:759-63,Chest 2007;132:1183-90 )。一方、アスペルギルス特異的IgG抗体(ImmunoCAP法) (Cut-offを26.9mgA/Lとする)の感度88%、特異度100%(Mycoses 2017;60:339)。 




2018-10-19

アスピリン喘息(AERD) まとめ

    少し前のNEJMにAERDのreview articleが載っていたのでまとめました。(NEJM 2018;379(11):1060-70)
    
    これまで、aspirin intoleranceaspirin idiosyncrasyaspirin-induced asthmaなどと呼ばれてきた背景があり、今でも日本ではアスピリン喘息(AIA)と呼ばれることが多いですが、最近では、アメリカを中心とした諸外国ではAspirin-exacerbated respiratory disease(AERD)、欧州や中東ではNSAID-exacerbated respiratory diseaseと呼ばれているようです。


■歴史的背景


・何千年も前から白柳の樹皮から生成されたサリチル酸に解熱・鎮痛作用があることは知られていた。

1897年にバイエル社がサリチル酸をアセチル化して、より胃腸障害の少ないアセチルサリチル酸を合成、商品名をアスピリンとして1899年より世界中で使用されるようになった。

1922年、Widalらによりアスピリンにより呼吸障害が引き起こされると報告。その他、NSAIDsでも同様の症状が引き起こされることが判明。

1967年、Samterらによりには鼻茸、喘息、アスピリンに対する過敏反応を三徴とする疾患と捉えて報告。



AERDの特徴


AERDの典型的な症状:

暴露時の症状として、上気道症状(鼻閉、鼻漏、くしゃみ)と下気道症状(喉頭けいれん、咳、喘鳴)。稀に(アナフィラキシーと同様の)胃腸症状(腹痛、吐気)や皮膚症状(紅潮、蕁麻疹)などの随伴症状を認めることも。

また、通常、通年性の鼻閉や鼻漏、嗅覚障害を認める。

・疾患の重症度は様々。(上気道がおかされるだけ~リモデリングの生じた重症喘息や重症な副鼻腔炎を伴うことも)

・アルコール摂取により上述したような上下気道症状が出現する。(特に赤ワインとビール) この機序は不明だが、エタノール以外の何かしらの成分により生じるのであろう。



■原因



・発症年齢は30歳頃(つまり後天的)で、発症原因は不明だが、遺伝的な感受性にウイルス感染や大気汚染などの外的要因が加わって発症するのではないかと推察。(実際、約50%の症例は、ウイルス感染契機に発症するともいわれている。)
やや女性に多い。人種差はない。家族性はない。

AERDのうち2/3に何らかのアレルギー素因があるとされる。しかしアレルギーが発症に関与しているわけではないとの見方が強い。



■頻度



・メタアナリシスによると、AERDの頻度は、

喘息患者の7.2%

重症喘息患者の14.9%

鼻茸を有する患者の9.7%

慢性副鼻腔炎患者の8.7%

(Rajan JP et al. J Allergy Clin Immunol 2015;135(3):676-681.e1)

2018-10-06

呼吸器内科医が知っておきたい BPD


DPB(diffuse panbronchiolitis)ではありません、そう、今回取り上げたいのはBPD


ここ数十年間の周産期医療の発達とともに、早産児や低出生体重児の救命率が向上しているのは皆さんご存知の通りです。しかし周産期を乗り越えればその後の経過は問題ないかというと、そうではありません。実は、早産児の成長後に長期的な合併症を生じることが問題となっており、中でも慢性呼吸器疾患を生じることが注目されています。そこで押さえておきたいのが気管支肺異形成(bronchopulmonary dysplasiaBPD)という病態です。



BPD1967年にNorthwayらにより提唱された概念で、当初は、早産児に生じるRDS(respiratory distress syndrome)に対して酸素投与と人工呼吸管理が行われることにより肺の線維化が引き起こされBPDに至ると考えられていました(いわゆるold BPD)(NEJM 1967;276:357-68)。しかしRDS自体の治療や予防が確立され、RDS後に高度の線維化を生じることが少なくなりました。



早産児は、肺胞構造が未完成のまま生まれてくる()ことに加え、RDSに対して行われた酸素投与や人工換気によって生じた炎症性サイトカインにより、出生後の肺胞の発育がさらに阻害され、BPDに至ると考えられるようになりました(New BPD)



実際、病理学的には、肺の発育の中断により中隔形成が障害された大きく数の少ない肺胞や、気道上皮のリモデリング、狭小化が認められるようです(Hum Pathol 1998;29:710-7)



Wongらは、1980-1987年に生まれた1500g未満の低出生体重児で酸素投与を要した21例を長期間追跡しFEV1の低下や気腫性変化が見られることを報告しています(ERJ 2008;32:321-328)。これらはまさにCOPDの病態ですね。


20歳男性、非喫煙者(28週 1355gで出生し生後321日間酸素投与を要した)