2018-07-08

吸入ステロイド使用中にも関わらず呼気NO高値が持続する理由

近年、呼気NOが測定出来るようになり喘息の診療に深みが増しました。
しかし、その分、呼気NO値に頭を悩まされることもあります。

今回のClinical Questionはこれです。

喘息診療において、吸入ステロイド使用中にも関わらず呼気NO高値(呼気NO50ppb)が持続する時に何を考えるか?』

・症状が残存している場合:

以下のことを考えましょう。

    まず確認すべきは、服薬アドヒアランス不良、吸入手技不良
(
これは喘息診療の基本中の基本)
    吸入ステロイドの用量不足
(
ステップダウンを行った後に注意が必要)
    持続的な抗原暴露
    副鼻腔炎の存在
    過去喫煙
    末梢血好酸球数増多
(
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の存在にも注意)
    慢性好酸球性肺炎の潜在
    遺伝的素因の関与
(Th2
炎症のシグナル伝達に関わるIL-4受容体α鎖の遺伝子多型など)

※④~⑥は、Matsunaga K et al. Clin Exp Allergy. 2012;42:775-81より

・症状がなく、喘息自体も落ち着いている場合:

ある一定の割合で、コントロール良好な患者の中に呼気NO高値の症例がいるのは事実です。以前ある講演で(FENO>40ppbをcut offとしたとき)30%程度と伺ったことがあります。確立された解釈はないそうですが、下記①~③の背景がある他(根拠は不明確でした)、④の関与も知られているようです。

    男性
    高身長
    アトピー素因
    構成型NOS(cNOS)の関与
(cNOS
をコードするNOS1遺伝子の反復配列多型の存在により、ステロイドの関与を受けないcNOSの発現を生じ、呼気NO値に影響する可能性がある)

ただし、ここで注意すべきは、「症状がない=コントロール良好」ではないので、真の意味でコントロール良好かを確認しましょう。

その上で、無症状のコントロール良好な症例で呼気NO高値を呈した時、吸入ステロイドをステップダウンするかどうかは本当に迷います。もしも実際にステップダウンするのなら、症状悪化しうることに留意しながら慎重にフォローをしましょう。


参考文献:
・An official STS clinical practice guideline: interpretation of exhaled nitric oxide levels(FENO) for clinical applications. Am J Respir Crit Care Med. 2011;184:602-15  Table4, 5

・呼気一酸化窒素(NO)測定ハンドブック作成委員会, 日本呼吸器学会肺生理専門委員会. 呼気一酸化窒素(NO)測定ハンドブック. メディカルレビュー社. 2018

第55回 呼吸器内視鏡学会 優秀演題に選ばれました

昨日7月7日に開催されました、呼吸器内視鏡学会 中部支部会の報告です。

今年から当科で働き始めた谷村先生が「局麻下胸腔鏡下生検で診断したクリプトコッカス胸膜炎の一例」を発表してくれました。

内視鏡学会での発表は彼女にとって2回目でしたが堂々としていました。
希少症例ということもあり、質問がたくさんありましたが、前回よりも質問に頑張って答えており成長した姿が見てとれ安心しました。

最後には、優秀演題にも選んでもらえて、苦労してスライドを作った甲斐がありましたね
論文にしなさいとの部長命令が出ましたので、もうひと仕事頑張ってくださいね。

2018-07-07

EWS中の新しい試み~トパーズを用いた定量的バルーンテスト

EWSの話題はこのブログ内でも何度か取り上げていますが、EWS施行中の課題として、責任気管支の同定方法である、バルーンテスト(バルーン閉塞試験)の精度が低いことが挙げられます。

バルーンテストとは、関与が疑われる気管支を葉気管支→区域支→亜区域支の順にバルーンで約15~20秒間閉塞し、気漏が消失もしくは著減した気管支を責任気管支と同定する方法のことを指します。これにて責任気管支が同定出来る症例は約半数とされており、判別が困難な場合は、CT画像からの推定責任気管支をえいやっとEWSで充填してしまうしかないのが現状です。

同定が難しい理由として、
① 気漏を生じる責任気管支が1つでない
  (同一葉内に側副路を介した他の関与気管支が複数ある)
② 葉間胸膜をまたいで側副換気が存在している症例がある
③ 従来型の三連ボトルシステム持続吸引器だと気漏の程度を主観的にしか判断出来ない

①が大多数、②は稀と思いますが、これらに関しては、例えば、EWSを1-2区域に充填し、その後、再度バルーンテストを追加することで、側副路を同定出来、気漏の減少を得られる可能性があります。(つまりめげない気持ちとしつこさが重要です)

③については、医療機器の問題なので、なんとかなりそうです。
そこで、近年、特に呼吸器外科領域で使用が広まっているデジタルモニタリング式持続吸引器(ThopazTM:トパーズ)をバルーンテストで使用してみました。


Medela社の製品ホームページより抜粋