胸水症例では結核性胸水の鑑別が重要です。
米国では、結核は低蔓延国なのでルーチンで測定することはないそうですが、日本では中蔓延国であり、ほぼルーチンで測定するADA(adenosine deaminase)値についておさらいしておきましょう。
ADAには、アイソザイムとしてADA1とADA2がありますが、結核性胸膜炎の時には、T細胞由来であるADA2が増加します。ただし血液成分が溶血すると、それによりADAが上昇するので解釈には注意が必要です。(当院では技師さんがコメント欄に溶血の有無を記載してくれます)
典型例ではADA>40U/Lとなることが多い(American College of Physicians online Oct 28, 2004)ですが、リンパ球優位であることが前提となります。
文献的には、好中球に対するリンパ球の比率が0.75より大きく、かつ、ADA>50U/L とすると、感度88%、特異度95%、陽性的中率95%、陰性的中率88%、診断精度 92%となるようです(Chest 1996;109(2):414)。すごいですね。
しかし、リンパ球優位ではなく好中球優位の症例にも出会うことがあります。
J Leeらによると、結核性胸膜炎と診断が下った353症例のうち24例(6.8%)は、非リンパ球優位の滲出性胸水でADA>40U/Lだったとされます。しかし、肺野の結節影の存在やADAがより高値(>58U/L)がであること、loculated effusion(被包化胸水)でないことがparapneumonic effusionとの鑑別に有用(Infection 2015;43:65-71)でした。
非典型例では総合的な判断が必要なようです。
ちなみに、同じ結核性胸膜炎でも、好中球優位とリンパ球優位の違いが生じる理由は何なのでしょう?
214例の結核性胸膜炎のうち24例(11%)が、好中球優位となり、好中球優位の症例は、リンパ球優位の症例と比べ、抗酸菌検出率が高く(喀痰培養 50% vs 25%;p=0.03、胸水培養 50% vs 10%;p<0.01)、ADAも高値(80 vs 62U/L;p=0.02)でした。また、半数以上の症例で穿刺を繰り返す過程でリンパ球優位に変化していったとされています(Int J Tuberc Lung Dis 2013;17:85-89)。
ということで、むしろ好中球優位ということで、端から結核性胸膜炎を否定するのは危険なようですし、好中球優位の方が病勢が悪そうです。
ただし好中球優位、ADA高値といえば、膿胸が有名ですね。
膿胸の3分の2でADAが上昇するようです。
なお、リンパ球優位に話を戻すと、悪性腫瘍でも上昇することがあります。Cut offを36/Lとした場合、肺癌の9%、悪性胸膜中皮腫の15%でADA増加がみられたそうです(Acta Med Okayama 2011;66(4):259-263)。他には、ピットフォールとして、リウマチ性の胸膜炎、悪性リンパ腫、サルコイドーシスが挙げられるでしょうか。
臨床的には、当然IGRAも参照しますし、非典型例には胸膜生検も行う必要があるでしょう。結核はまだまだcommon diseaseなので鑑別を挙げるのは容易ですが、やはり診断は難しいといったところでしょうか。