2020-11-21

化膿性血栓性静脈炎 まとめ

 ・内頚静脈に生じた化膿性血栓性静脈炎は、Lemierre症候群としても知られている。(咽頭炎や扁桃周囲膿瘍、歯性感染に引き続き生じる。)

・カテーテル血流感染の約7%に合併し得る。カテーテル血流感染で有効な抗菌薬開始72時間以降も血液培養が持続陽性の場合は疑う必要あり。

・臨床徴候:

 典型的には悪寒を伴う39℃以上の発熱。静脈に沿った発赤、熱感、圧痛。敗血症性肺塞栓や肺膿瘍、膿胸を生じれば呼吸器症状を伴う。97%に敗血症性肺塞栓を認めた、という報告あり。(Medicine. 1989;68(2):85. Postgrad Med J. 1999;75(881):141. )

・原因菌:

 Lemierre症候群の場合、最も多いのがFusobacterium necrophorum。
   他には、Eikenella corrodens、Porphyromonas asaccharolytica、Streptococcus pyogenes、Bacteroides
など。

 カテーテル血流感染では、Staphyrococcus aureus、CNS、など皮膚の常在菌が多い。他、腸内細菌やカンジダも。 

・診断:

 USや造影CTで血栓を証明し診断する。

抗菌薬治療:

 Lemierre症候群を疑う場合はエンピリカルにSBT/ABPC or TAZ/PIPC or カルバペネムを開始する。カテーテル血流感染ではエンピリカルにVCMの使用を考慮する。培養結果に従い狭域抗菌薬に変更する。臨床的に効果が認められるまで(肺内病変がある場合はCT画像で消退するまで)、治療を継続すべき。一般的には、少なくとも4週間は必要。2週間点滴投与した後に、経口薬にスイッチすることは可能。

抗凝固療法:

 比較試験がなくcontroversialであるが、適切な抗菌薬治療を行っても血栓が増大する場合は、検討する。(Postgrad Med J. 1999;75(881):141.)

 

参考:up to date "Suppurative thrombophlebitis" 
         感染症プラチナマニュアル


2020-07-10

シングルユースの気管支鏡 aScope4

ディスポで使用できる気管支鏡。
こんな便利な製品が発売されていたのですね。
今まで知らなかった…。

ベッドサイドで使用する気管支鏡としては最強かもしれません↓




















当科でも、さっそく使用してみましたが、

手軽にセッティング出来て  (もうあの重いトロリーを運ぶ必要なし!)
軽くて  (モニターが別なので、手首が疲れない!)
画像を皆で共有できる  (術者の手元のモニターを必死でのぞき込む必要なし!)

画像もとても鮮明でした。

うん、良いことしか思いつかない…。

サイズは、
Slim  外径 3.8mm チャネル径 1.2mm
Regular   外径 5.0mm チャネル径 2.2mm
Large      外径 5.8mm チャネル径 2.8mm  

の3種類ありますが、
緊急時(吸痰や出血対応)に活躍すると思われるので揃えるならLargeがよいでしょうか。

2020-05-10

M. abscessusとM. massilienseの治療


M. abscessus


M. abscessusは、迅速発育菌の1菌種である。

他の迅速発育菌としては、M.fortuitumM.chelonaeなどがある。

M. abscessusは、MAC症と同様の臨床所見を呈する。(中年以降の基礎疾患のない非喫煙女性に多く発症し、結節・気管支拡張型の画像所見)

MAC以上に難治で予後不良。



治療

初期にはin vitroでマクロライド(CAM or AZM)に感受性ありと判断されても、マクロライド誘導耐性に関与するerm遺伝子を発現しているため、マクロライド単剤では耐性化が引き起こされる。

専門家の中でもM. abscessusの治療について一定のコンセンサスはなく、薬剤感受性を参考に治療選択を行うしかないが、MICについても明確な基準がないため、薬剤感受性をもとに治療を行ったとしても治療効果を期待できるとは限らない。



初期治療

注射剤による多剤併用療法を8-12週間行う↓


AMK(アミカシン)静注 + in vitroで感受性のある薬剤(CFX(セフォキシチン), IPM(イミペネム), TGC(チゲサイクリン), LZD(リネゾリド)のいずれか2剤) を使用



※しかし本邦では適応外の薬剤や使用方法あり



維持治療


忍容性があれば初期治療を可能な限り継続する。

肺病変については、喀痰の培養が陰性化してから少なくとも12か月間の治療を行う。皮膚軟部組織感染や骨病変、播種性の病変に対しては、少なくとも6-12か月間治療を行う。



その他の選択肢として、

    経口薬にスイッチする(しかし感受性の保たれる経口薬剤は限られる)
LZD, TZD(
テジゾリド), Clofazimine(クロファジミン), MFLX(モキシフロキサシン),bedaquiline(ベダキリン)など

②初期治療後、一旦治療を終了し、再燃時に初期治療を繰り返す。


これらの治療にも関わらず排菌が継続するようであれば、病変の切除を検討する。



※繰り返すが、上記には、本邦で適応外の薬剤や使用方法あり、倉島先生からは
CAM, FRPM
併用を基本とし、AMK, KM, STFX, MFLXの併用を行う方法が提唱されている。





M. abscessus subspecies massiliense



M. abscessus はさらに、3つのsubspeciesに細分類されその1つがM. massilienseである。マクロライドの感受性において大きく異なるため、これらを区別することは重要であるM. massilienseerm遺伝子発現がみられないため、NTM治療のキードラックであるマクロライドの効果が期待できる。



治療

マクロライドをキードラッグとした併用療法を行う↓
AZM 250-500mg/day + in vitroで感受性のある薬剤(AMK, CFX, IPM, TGC, LZD)を使用



臨床的な効果が見られれば、マクロライドとLZD等の経口薬の併用に切り替えてもよい。



肺病変については、喀痰の培養が陰性化してから少なくとも12か月間の治療を行う。皮膚軟部組織感染や骨病変、播種性の病変に対しては、少なくとも6-12か月間治療を行う。(治療期間については、M. abscessusと同様)



※肺病変に対して、マクロライド+AMKCFXIPM2週間使用し、マクロライド単剤に切り替えた症例について、全例で症状の軽快を認めており、91%に画像の改善、12か月後の菌陰性化を認め、マクロライド単剤の使用は有効であると考えられた。しかしその一方で7%に細菌学的な再燃を認めており(Chest. 2016;150(6):1211. Epub 2016 May 7)、耐性菌の出現の懸念あり、推奨されない。





参考:up to date (Rapidly growing mycobacterial infections: Mycobacteria abscessus, chelonae, and fortuitum)を翻訳、抜粋。


2020-03-03

WHO 新型コロナウイルスに関する調査報告書 ~ Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) ~


Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019
(COVID-19)
                     16-24 February 2020



現在、新型コロナウイルス(COVID-19)による世界的な感染が拡大する中、最初に感染発症した中国のNRS(National Reporting System)によると、中国国内の感染者数は110から22日までは急増したものの、23-27日の間にプラトーに達しその後は減少に転じ収束に向かっているとされます。今回、中国国内のCOVID-19のアウトブレイクの現状と封じ込め措置の過程について記された調査報告書がWHOと共同で作成、公開されました。(https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/who-china-joint-mission-on-covid-19-final-report.pdf) 現在進行形のアウトブレイクへの対応の理解を深めること、また、感染が確認されていない地域が今後に備えておくべき知識の共有などが主の目的ではありますが、最前線の医療現場で働く我々にも参考になるCOVID-19感染の臨床像についての記載がありましたので、抜粋・要約してお伝えします。(なお原文は全部で40ページあり、かなり読みごたえのあるものですが、ぜひ一度目を通していただくことをお勧めします。)                                           



以下はすべて2020/2/20時点における中国国内の統計データです。



■疫学:

検査による確定診断例:55924 年齢中央値 51(生後2-100)

ヒト-ヒト感染は主に家族間で生じている。クラスター発生の約8割が家族内感染である。



■感染経路:
飛沫、接触感染。特定の医療行為によるエアロゾル感染があり得る。糞便中にもウイルスが確認された例もあり、主要な感染ルートでないにせよ糞口感染の可能性も念頭に置く。(糞便内には、30%の人で発症5日目ごろよりウイルスRNA検出されはじめ、中等症例では4-5週間まで持続するともいわれる。)



■症状:

COVID-19の症状は非特異的。無症状から重症肺炎を発症するもの、死に至るものまで様々。典型的な症状を挙げると、発熱(87.9%)、乾性咳嗽(67.7%)、倦怠感(38.1)、喀痰(33.4%)、息切れ(18.6%)、咽頭痛(13.9%)、頭痛(13.6%)、筋肉痛・関節痛(14.8%)、悪寒(11.4%)、嘔気・嘔吐(5.0%)、鼻閉(4.8%)、下痢(3.7%)、喀血(0.9%)、結膜充血(0.8%)



感染後、軽度の気道症状や発熱を呈するまでに5-6日かかる。(潜伏期間の中央値は5-6日。最短で1日、最大で14)



■重症化の割合と死亡率について:


全体
小児(19歳以下)
(全体の約2.4%を占める)
軽症/中等症 mild/moderate
(
軽度の肺炎も含む)
80%
97.3%
重症 severe
(
呼吸数30/分以上 or SpO293% or P/F<300mmHg and/or 24-48hr以内に陰影が肺野の50%以上に及ぶ)
13.8%
2.5%
重篤 critical
(
人工呼吸管理を要する呼吸不全、敗血症性ショックand/or 多臓器不全)
6.1%
0.2%

無症候性の感染について報告はされているが、真の無症候例は稀であり、多くの場合は何らかの症状を呈するのではないかとされている。



重症化の危険因子:
60
歳以上、基礎疾患あり(高血圧、糖尿病、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、悪性腫瘍など)



粗死亡率(Crude fatality ratio; CFR)

3.8%(2114/55924)  
アウトブレイク初期には高かったが時間がたつにつれ低下傾向にある


地域別→武漢では5.8%、武漢以外の中国国内では0.7%

 年齢別→80歳以上 21.9%

 男女別→男性4.7%、女性2.8%

 基礎疾患別→基礎疾患なし 1.3%  心血管疾患あり 13.2%、糖尿病あり 9.2%、高血圧あり 8.4%
  慢性呼吸器疾患あり 8.0%、悪性腫瘍あり 7.6%

                                     

■臨床経過:

発症から診断確定までは、中央値12日。

軽症例では、発症からおよそ2週間で回復。

重症以上では、発症から約1週間で低酸素血症などの重症化の兆候を呈する。
   発症から3-6週間で回復。
  (
死亡例の場合、発症から死の転帰を辿るまでに2-8週間)



注:本文Figure5を抜粋
    図内の各矢印の太さは、患者の割合を示しています↑



2020/2/20時点で、24%が回復
(回復の定義:3日以上の解熱、症状改善、陰影改善、24hr以上あけて2PCR陰性確認)

広東省では、重症例のうち26.4%が退院し、46.4%が軽度の症状を有するが軽症の肺炎に
再分類され回復過程にある。



■検査について:

RT-PCR検査を行う上で知っておきたいこと:

COVID-19ウイルスは、気道(上・下気道)、糞便、血液検体より検出される。発症の1-2日
前から上気道で検知できるようになり、中等症例では7-12日持続、重症例では2週間まで
続く。

2020-02-23

アフィニトール ~カルチノイドの治療薬~ まとめ

まずは肺癌の組織分類からおさらいしましょう。
WHO分類によると、腺癌、扁平上皮癌、神経内分泌腫瘍、大細胞癌の4つに分類されます。さらに、神経内分泌腫瘍(NET; neuroendocrine tumor)は、well-differentiated (low grade to intermediate grade) subgroup であるカルチノイドと、poorly differentiated subgroup (high grade) である神経内分泌癌(NEC; neuroendocrine carcinoma、小細胞癌・LCNEC)に分けられます。カルチノイドはさらに定型と異型に分けられます。

カルチノイドは全肺癌数の約1%であり、とても稀ですが、米国の疫学調査によると、肺によらず全身諸臓器のNETは増加傾向のようです(Dasari A, et al. JAMA Oncol. 2017;3:1335-1342)。

ところで、カルチノイドといえば、カルチノイド症候群が有名ですが、肺原発の場合は、90%以上が非機能性、つまり、ホルモン産生性はありません。

膵・消化管の機能性のNETに対しては、ソマトスタチンアナログの有効性が示されていますが、前述したように、肺原発のカルチノイドは非機能性が多く、切除不能な肺カルチノイドに対する有効な治療法はこれまでありませんでした。

しかし、RADIANT-4試験(Yao JC, et al. Lancet. 2016;387:968-977)で、primary endpointであるPFS中央値の有意な延長効果(エベロリムス群 11.01ヵ月 vs プラセボ群 3.91ヵ月,  HR 0.48 95%CI; 0.35-0.67; p<0.001)が示され、2016年8月より、カルチノイドに対してアフィニトール®(エベロリムス)が適応となりました。(注釈 ※1, 2)

※1:ちなみに、RADIANT-4試験におけるsecondary endpointの結果で、ORR(CR+PR)=2.0%、DCR(CR+PR+SD)=82.4%  …ほとんどがSDなのですね。

※2:アフィニトール自体は、既に膵NETに対する有効性が示されており(RADIANT-3試験, Yao JC, et al. N Engl J Med. 2011;364-514-523)、本邦では、2011年12月より膵NETに対して適応となっていました。


アフィニトール®は、mTOR活性を阻害することで、細胞の分裂・増殖を抑制し抗腫瘍効果を発揮します。また、血管新生を抑制し、血管内皮細胞の増殖を阻害する間接的な作用も有しているようです。

副作用は、mTOR阻害剤に特徴的な口内炎(62.9%)、下痢(31.2%)、感染症(29.2%)、間質性肺炎(15.8%) 、高血糖(10.4%)などがありますが、いずれも重篤ものは少なく綿密なフォローによりコントロールされうるものと考えます。最も頻度の多い口内炎については、口腔ケアを行うことで重症化を防ぐことが出来るとされます。

2020-01-09

肺放線菌症の画像所見 まとめ

過去の症例を振り返っていたら、歯性感染から血行性にseptic emboliを生じた(かもしれない)放線菌症の症例を見つけたので少し勉強してみました。

ちなみに、通常、肺放線菌症は口腔内のActinomyces を誤嚥することにより発症するとされ、下葉に多いと言われています。ただし、下葉以外の部位の報告もあり、中には、今回の症例のようにseptic emboliの関与が疑われる症例もあります。

放線菌の一般論については省略し、ここでは画像所見についてまとめてみます。

■特徴的な画像所見:

・mass like shadow
          辺縁明瞭な円形陰影および類円形の陰影
          肺悪性腫瘍との鑑別が問題となる
・air space consolidation
・central low attenuation area(LAA)
   縦隔条件で確認する
   上記のmass like shadow、consolidationどちらかに関わらず認められる
   1つの陰影内に複数個認めることもある
・陰影内部もしくは隣接した気管支・細気管支拡張
   cerntral LAAに連続して認めることが多い
・隣接する胸膜肥厚
・葉間を超えた浸潤

■画像と病理との対比

mass like shadow とconsolidationは、気道周囲の肉芽組織と炎症細胞浸潤を反映し、central LAAは、放線菌の菌塊を含む膿瘍に相当する。また、気管支・細気管支拡張は、菌塊によるair-trappingによって中枢側の気管支拡張が生じた結果と考えられる。(日呼吸会誌 2003;41(8):514-521、感染症会誌 2005;79(2):111-116)

■経時的変化について

central LAAと気管支・細気管支拡張像はごく初期には出現せず、一定期間進行した病気で出現する可能性がある(日呼吸会誌 2003;41(8):514-521)とされます。上記のようにこれらが菌塊を反映した所見であれば、菌塊が育ってきてからしか見られないのも納得です。

2019-12-01

呼吸ケアリハビリテーション学会 in 名古屋

前回の投稿と前後しますが、11月11-12日にケアリハ学会が開催されました。
近所だったので参加してきました。


ケアリハといえばCOPD。
COPDといえば今、巷を騒がせているACP(Advance care planning; 愛称 人生会議)。

「患者・家族・医療者との話し合いを通じて、患者の価値観や人生観、死生観を明らかにし、これからの治療やケアの選好を明確にすること」

言葉やイメージがひとり歩きしている感はありますが、
でも、ACPは患者さんや医療者にとって、大切なことなんです。

今回の学会では、当院の慢性呼吸器疾患看護認定看護師の斎藤さんがCOPD患者さんの事前指示の認識に関するアンケート結果のまとめを発表してくれました。
増悪歴のあるCOPD患者さんであっても、事前指示については考えたことのない方が多かったという結果でした。

増悪を起こしたCOPD患者さんは、増悪を乗り切った後に次の増悪に備えて、ACPを行い、事前指示についても話し合っておくのが望ましいとされます。
「ACP=事前指示」ではありませんが、増悪時に人工呼吸管理を要する状態になりうる、というCOPDの疾患の特性上、ACPを行う中で、事前指示は避けては通れない事項と考えます。

当科は、ACPをいつ、誰と、どのようにして行うのか模索中の段階ですが、患者さんや患者さん家族にとって、医療者と話し合った結果、より良く生きることが出来るような、そんな話し合いの場をもつことが理想です。