2015-09-05

全肺洗浄を行いました

肺胞蛋白症というと、その特徴的な画像所見や臨床的特徴(いわゆるcrazy-paving patternや米のとぎ汁様の白濁したBALF)のおかげで、有名な疾患ですが、有病率は 100万人に6人とされており、非常に稀と考えられています。

 軽症例は、健診で指摘されることもあります。30%程度が無症状とも言われています。重症度Ⅲ-Ⅴに該当する症例で全肺洗浄が必要になると言われており、海外の文献では診断から全肺洗浄に至るまでの期間の中央値は2ヶ月。12ヶ月以内に79%の症例が全肺洗浄を施行した、とあります(Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(2):215-35)。一方、本邦でのアンケート調査では自己免疫性肺胞蛋白症 352(71施設)のうち、80症例(34施設)で全肺洗浄を施行、診断から洗浄までの期間の平均は21.3±24.3ヶ月のようです。当施設でも、ずいぶん昔に肺胞洗浄の経験はあったようですが、残念ながら当時のプロトコールは残っておりませんでした。

 今回、新たに全肺洗浄を必要とする患者さんがおられたため、麻酔科の先生方や理学療法士さんの協力を頂きながら、一からプロトコールを作ることとなりました。

 また、当日はアドバイザーとして、新潟大学 医歯学総合病院 魚沼地域医療教育センター 特任准教授の赤坂圭一先生にお越し頂いて、直接ご指導いただきました。(本当にありがとうございました!)

回は初回ということで左側を洗浄。合計15L2時間程かけて無事、処置を終えることが出来ました。(回収率98%と非常によい結果となりました)


洗浄後の廃液ボトルです。少し沈殿してわかりにくいですが、
教科書で見るようなグラデーションになりました。



ちなみに、この「肺胞を洗う」、という治療法はいつから登場したのかというと、1960年に「segmental flooding」としてRamiezらが紹介したのが最初のようです。(awakeで気管支内腔に盲目的に生食を注入。毎日複数回、2-3週間、異なる肺葉に注入されるよう体位変換して行ったとありました…。何とも恐ろしい…。これにより咳嗽発作が起こり白濁した粘性の痰が喀出され、診断もかねての治療が出来たとのこと。) (P R Health Sci J. 1992 Apr;11(1):27-32) 

1964年には「Bronchopulmonary lavage in man」というタイトルで3Lの生食で局麻下全肺洗浄を初めて施行したと報告(Ann Intern Med. 1965;63:819–828)。その後、より安全で効率のよい方法になるよう修正を重ねながら、現在に至るまで肺胞蛋白症の標準治療として行われています。全肺洗浄が有効な理由ですが、マクロファージが処理できずに蓄積してしまったサーファクタントを物理的に排除する、という単純な機序だけではなさそうです。なぜなら、洗浄後に対側の陰影も改善することがあるからで、その理由は良く分かっていません。

尚、病因として1994年にGM-CSF抗体の関与が判明してからは、GM-CSF製剤の吸入療法が試みられています。本邦で自己免疫性肺胞蛋白症に対して行われた多施設第Ⅱ相試験では奏効率62%と良好な成績を上げています(Am J Respir Crit Care Med. 2010;181:1345-1354)GM-CSF吸入無効例は、末梢気腔にサーファクタントが貯留しGM-CSFの到達が妨げられている可能性があり、全肺洗浄後に吸入を行うことで効果が得られたという報告もあります(日呼吸会誌 2009;47(9):833-838)しかしながら、現時点ではGM-CSF吸入は未承認です。

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最後に、今回の手技にご協力いただきましたすべてのスタッフの方々に深謝致します。


 

3 件のコメント:

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  2. 肺胞蛋白症の治療はやってますか?

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  3. 肺胞蛋白症治療可能ですか?

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