2017-11-12

加熱式タバコをめぐる問題

なにかと話題になっている加熱式タバコ。
最近、外来で、患者さんとこんなやりとりをよくします。

私   「タバコやめましょうね」
患者さん「iQ●Sにしてるんで…」
私   「あ、そうなんですね」(内心、そうきたか…!)
       「でも、iQ●Sだって安全かどうか分からないですよー」

ということで、噂が先行している感のある加熱式タバコ。しかしタバコ販売のシェア1割を超え利用者は急増しているようで、患者さんにきちんとした情報をお伝えするためにも、加熱式タバコについてまとめてみました。

①用語について

加熱式タバコ=電子タバコではないようですね。
混同したまま報道されているものもあるので注意が必要です。
私自身も混同していました。

・加熱式タバコ:
正式には非燃焼・加熱式タバコ(heat-not-burn tabacco cigarettes)。
葉タバコを加熱することによりニコチン含有エアロゾルを発生させて吸引するタイプ。
iQOS(フィリップ・モリス・ジャパン)、Ploom TECH(日本たばこ産業:JT)、glo(ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン) がある。ちなみに、iQOSは何の略語かというと「I Quit Ordinary Smoking」なんだとか。本当にやめられれば言う事ないのですが。

・電子タバコ:
Vapeとも呼ばれる。「リキッド」を加熱してエアロゾルを発生させて吸引するタイプ。「リキッド」にはニコチン含有のものと含有していないものがある。ニコチン含有は外国製が主体で、日本製はニコチンを含まず煙と香りを楽しむものが主体であったが最近ではニコチン入りも販売あり。

②有害性について

それでは、これら新型タバコの有害性についてみていきましょう。

201710/31に、日本呼吸器学会が「非燃焼・加熱式タバコや電子タバコに対する日本呼吸器学会の見解」という文書を出しています。

これによると、新型タバコの使用と病気や死亡リスクとの関連性については、科学的根拠が得られるまでに時間を要するため現時点では明らかでないとした上で、従来型のタバコの代替として推奨する風潮へ警鐘を鳴らしています。

加熱式タバコの開発メーカーは、有害性成分を90%カットできたと公表しているようですが、一方で、Auerらは、最近、加熱式タバコの主流煙中に燃焼式タバコほぼ同じレベルの有害物質(アクロレイン、ホルムアルデヒドなどの発癌物質を含む)が含まれることを示しました。また、アセナフテンという炭化水素の一種である有害物質については燃焼式タバコよりも3倍も多いという結果になりました。(JAMA Internal Med 2017 Jul 1;177(7):1050-1052)

双方が異なる結果となりましたが、メーカー側も「90%カットできた」と報告はしているものの「無害」と謳った訳ではないので、非はないですし、さも安全なものかのように喫煙者側が都合よく解釈してるともとれます。いずれにせよ、現段階では研究データもまだ少ないのが現状で、患者さんへは「有害物質を多少なりとも吸い続けることには変わりない」と伝えるしかないでしょう。また、従来型のタバコ同様に受動喫煙の規制もはじまっているようですが、受動喫煙のリスクについても同様に検証が必要です。

2017-10-14

ERS 2017 in Milan

早いもので1ヶ月が経過してしまいましたが先月参加したERSの報告をさせていただきます。呼吸器内科志望の後輩とともに行って参りました。ちなみに今年のERSはミラノで行われました。来年はパリだそうで、毎年ERSに参加すればヨーロッパ周遊が出来ますね(いうほど容易くないけど …)。

今年は主に、COPD、中でも呼吸管理やネーザルハイフローについて聴講してきました。また、肺エコーのワークショップに参加したり、Meet the exspertsというセッションで横隔膜エコーというマイナーな分野について学んできました。横隔膜の厚みを測定することでweaningの指標になるそうで(Intensive Care Med.  2017;43(1):29-38)、早速試したいですね。

また、イタリア各地の病院から気管支鏡の実技(EBUS-TBNA, バルブやコイル留置, 間質性肺炎に対するCLE(confocal laser endomicroscopy)による観察とクライオバイオプシー)を実況中継するという企画もあり、大変盛り上がりました。特にCLEについては初めて知ったのですが、これにより得られる実体顕微鏡のような微細な線維構造は神秘的とすら思えました。また、CLEによる間質性肺炎の診断のさらなる可能性を感じました。



そして学会3日目には私自身の発表がありました。poster discussionにて本邦22施設で行われたネーザルハイフローの使用実態調査の結果とNIV使用例との比較というテーマで発表させていただきました。国際学会3回目でこの英語力、という自身の至らなさを痛感しながらも、なんとか発表を終え、ディスカッションのパートでは座長の先生がうまく参加者をディスカッションの輪に引き込んで下さり、各国の呼吸管理の現状ともさほど変わらないことが分かりました。



学会発表はいつもそうですが、準備が非常に大変ですが得られるものも多く、有意義な時間を過ごすことが出来ました。発表をサポートして下さった優しい?上司の先生方、不在の間、病棟や外来をカバーして下さった呼吸器内科スタッフ一同には大変感謝しております。

2017-10-01

今年もバーベキュー

こんにちは。お久しぶりです。
今年もようやくバーベキューの季節がやってきました。
後輩の準備と天候に恵まれ無事開催できました。

また今年は鮭のちゃんちゃん焼きやプルコギ、お好み焼きも新規導入。
差し入れもたくさん頂き、おなかいっぱいに。
子供たち(中にはスタッフのお孫さんも?)は水鉄砲やシャボン玉で大はしゃぎ。
こうやって職員の家族ぐるみの付き合いが出来るのもイベントならではの楽しみです。

明日からもまた仕事ですが頑張っていきましょう。

最後に恒例の集合写真!

2017-09-02

呼吸器内視鏡 専門医試験

備忘録として記載しておきます。今後の参考に。

試験は8月末に行われます。
今回の受験者は300人くらいでしょうか。試験会場は一部屋でした。
私の情報収集能力がないだけかもしれませんが、合格率は不明です。

学会のHPに記載のあった通り、主には「気管支鏡―臨床医のためのテクニックと画像診断」という本から出題されます。会場ではみんなその本を読んでました。

試験時間は2時間で80問。

気管支鏡のしくみと取り扱い、洗浄方法は感染症とからめて、気管支や血管との位置関係を問う解剖、病理迅速検査について、AFI、PDTやステントの知識問題、内腔写真をみて枝の命名を行うもの、気管支内腔所見を呈する疾患の臨床的な内容、所見から病名を選択するもの。

選択肢は2つ選ばせるものや、正しいものを全て選ぶものが多く、きっちりと知識をおさえていないと自信をもって選べないと思いました。

潔く来年も受けましょう!(笑)

2017-07-08

血ガスって難しい

先日、看護師さん、MEさん向けの呼吸療法セミナーで血ガスの読み方をレクチャーして参りました。呼吸療法認定士などを目指す方などレベルの高い方が多いセミナーなので、とても緊張しました。講義するにあたり、呼吸生理、血ガスの種々の計算式をざっと復習しましたが、改めて難しいなーと感じました。



私の考えるところの、コメディカルに期待するレベルとしては、

PaO2とPaCO2 → これは当然でしょ 
pHやHCO3- → 病勢を考える&予測するために知っててほしい 

の2段階かなと思ってます。

(講義では、A-aDO2の式の導き方や解釈などもお話しましたが…
 room airじゃないと実用的じゃないし...
 実際は毎回計算してないし... あぁ言っちゃった...)

ただし、データを読み解くための基礎知識として、I型呼吸不全、Ⅱ型呼吸不全の違いや、そこに肉付けして、Ⅱ型呼吸不全になりやすい疾患、CO2貯留時の兆候とその対応などを知ることのがもっと大切なのです。

若手看護師から呼吸療法認定士を目指す人が増えるといいですね。




2017-06-18

呼吸器内視鏡学会 in 長崎


先週、長崎で開催された呼吸器内視鏡学会の参加レポートです。



ここ数年、EBUS-GS、VBN、EWS、BT、AEROステントなど、毎回その年のトピックスとなるようなものがありましたが、今年は、どうでしょう。

EBUS-TBNAの穿刺針のラインナップが増えたこと(19Gと25Gが登場)、クライオバイオプシーの話題を目にすることが多かった印象です。その背景には、検体をいかに大きく、もしくは確実に採取するか?が隠れたテーマとしてあると思います。つまり、肺癌の診断は組織型だけでなく、免疫染色(PD-L1のheterogeneityの問題)、遺伝子検索(EGFR, ALKに加えROS1が追加)を並行して行う必要があり、十分量の検体を採取しなければならなくなったからです。

2017-06-01

第111回 呼吸器学会 東海地方会

5月27-28日に、愛知県がんセンター中央病院で呼吸器学会 東海地方会が開催されました。

当院からは、今回は3演題 症例発表を行いました。

「掃除機内の真菌が原因と考えられた過敏性肺臓炎の一例」
「Nivolumabによる薬剤性肺障害が疑われた一例」
「腸結核による消化管穿孔で発見された肺結核の一例」

Nivolumabの薬剤性肺障害のまとまった報告はぼちぼちなされていますが、ステロイドの開始量の設定と投与期の設定がポイントなりそうです。ただし、難治例と再発症例については、まだまだデータが少なく免疫抑制剤やinfliximabの使いどころはよく分かっていません。

そんな難しい症例でしたが、後期研修医の先生が堂々とした発表をしてくれました。
おつかれさまでした!

打ち上げはやっぱり今年もあのお店で...。ご馳走様でした。


2017-05-20

緩和ケアチームでの研修を終えて


当院では緩和ケア病棟がありません。しかし、癌患者さんは大勢入院されるため緩和ケアのニーズは高く、腰を据えて緩和ケアを学ぶため当科スタッフが1か月半の研修を行いましたので研修報告をさせていただきます。

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21日から一か月半、埼玉県立がんセンター緩和ケアチームで研修してきました。大宮の北約10kmにある503床の県がん診療連携拠点病院です。36床の緩和ケア病棟がありますが、主には院内の他病棟他科に入院中の患者を対象とする緩和ケアチームの活動に参加しました。緩和ケアチームは緩和ケア科上級医1名とレジデント1名、看護師3名、薬剤師1名が主なメンバーです。そのうちの医師2名と看護師1-2名で日々のチームラウンドを行っておりました。


チームを率いる余宮先生は、緩和医療学会のがん疼痛薬物療法ガイドライン作成委員会副委員長を務められ、特に鎮痛補助剤に造詣が深い先生です。緩和ケアに関する著作も多数あり、看護師やコメディカルスタッフにも役立つ内容となっております。

2017-05-03

呼吸器学会総会2017に参加してきました

2017年4月21日~23日に東京国際フォーラムで第57回日本呼吸器学会総会が開催され、当科からはランチョンセミナーとポスター2題を発表してきました。

2017-04-15

DNI症例に対するNPPV

こんにちは。
先週末に開催されたケアリハ地方会の報告です。
ケアリハ地方会自体は第4回目となるんですね。今回は名大での開催でした。
小雨の降る中でしたが、鶴舞公園は花見の見物客でいっぱい。
そして、地方会会場の名大講義室も満席となる盛況っぷりでした。

RSTメンバーの中から、私とPTさん2人が演題発表を行いました。



私は、COPD増悪でNPPV管理を行った症例の中でDNI(Do-Not-Intubate)症例に焦点を絞った治療成績について発表しました。ちょっとした課題も見えてきたので紹介したいと思います。

高齢者の割合が相対的に増加する中で、DNI症例が増える傾向にあります。DNI症例であっても、COPD増悪に対してNPPVは十分に推奨されており(NPPVガイドラインではエビデンスレベルⅣ推奨度B)、特にPCO2高値は良好な予後予測因子ですので(Crit Care Med 2004;32:2002-2007)、NPPVをトライしてみてもよいと思います。

しかしfailureした場合は、どこまでNPPVで粘るのか?という現場の悩みがあるのも事実です。もしかしたら症状緩和に主眼を置いた方がいい症例もあるかもしれません。そうでないと、なんとなくNPPVを開始し、なんとなく継続して、改善なければNPPV装着されたまま看取りとなることに。もちろん、それ自体が必ずしも悪いとはいいません(実際、本人の苦痛なく、かつ、ご家族の希望で継続することも多いです)。

しかし本来は、NPPVを開始した時点で、目標設定をはっきりさせておくのが良いのでしょう。目標が達せられたかった場合は、NPPVを中止して緩和ケアに移行するのが良いかもしれません(Crit Care Med 2007;35:932-939のカテゴリー2に該当)。しかし、ここには2つの問題点が存在すると思われます。

一つは、NPPVを開始しても回復がない状態で予後が短期間と想定される段階、すなわち「最終末期」の段階をどう迎えるのかについては、患者本人の意思なくして語れないはずなのですが、事前に本人の意思表明が得られていないことが多いという問題です。

COPD終末期と認識される段階(ERJ 2008;32:796-803)で、最期の迎え方を話し合っておくのが理想ですが、まだその時点では、それなりに元気に過ごせていることもあり、後回しになりがちで、腰を据えて話すタイミングがなかなかありません。例えば在宅酸素導入になった段階で、主治医が時間を作り向き合う姿勢が必要なのかもしれません。

もう一つは、NPPVを中止し緩和ケアに移行するということ自体が、医療従事者にとっても患者家族にとっても精神的にストレスのかかる決定であるということです。実際、日本の臨床現場でどの程度実践されているのかわかりません。その辺りの実情は、倫理的に非常に重要なのですが、学会でもあまり語られずデータにもなってない部分であり、fuzzyなままなのです。

2017-03-29

第3回 大垣 人工呼吸器シミュレーショントレーニング開催

こんばんは。
3月25日に当院で開催されましたシミュレーショントレーニングの模様をお伝えします。
早いもので、始めてから3年経つのですね。

13時から開始して夕方までに怒涛の9つのシナリオをこなしました。
実際に経験したケースも盛り込んであり(挿管チューブのカフトラブル等)
より実践的かつ教育的な内容になりました。
シナリオの難易度自体は今年が一番難しかったのではないでしょうか?

参加してくれた皆さんのためになれば、と思って開催してますが、
我々開催する側も、ファシリテーターとしてのスキルアップも出来たらと思い頑張ってます。
(ファシリ役はとっても難しいですが…)

参加者&県外から見学に来て下さった方々、お疲れ様でした。
今回の体験をさっそく現場で生かせるとよいですね。

4人一組で、人工呼吸器のアラームに対応します。
左奥には新たにモニターが設置されたことにより、一層緊迫感が増しました。

最後に集合写真。無事終わって安堵の表情。

コントラスト心エコー

コントラスト心エコー(マイクロバブルテスト)を施行しようとして、実際マイクロバブルをどうやって作るの?ってなったので、手順と評価についてまとめたいと思います。覚書程度なので参考までに。

①右正中にルート確保

②マイクロバブル作成
   3方活栓に10mlのシリンジを2つ装着
   1つのシリンジ内に生食7ml、air 1mlを入れ
   もう一方のシリンジには血液(ルートからの逆血)2mlを吸引し交互にpushして撹拌

③左側臥位で4 Chamber viewを描出しながら②を5〜10ml フラッシュ

④評価
    マイクロバブルが右房に確認出来てから、3〜6拍より後に左心に到達するようなら、肺内血管 
のシャントの存在示唆される。(ex; Hepatopulmonary syndrome.  Pulmonary arteriovenous fistula)  (ちなみに、3拍以内であればPFOやASDが考えられる。心内右左シャントの描出には経食道エコーがベター)

※②の配合は調べてもあまり記載されてないですね。施設によってまちまちなのでしょうか。エコーの技師さんに教えて頂きました。血液は入れなくてもいいのですが、入れた方が泡立ちが良くなり泡が残りやすいようです。

2017-03-20

髄膜癌腫症に対する放射線治療の効果

髄膜癌腫症(Leptomeningeal metastasis:LM)は肺癌の5%程度に見られる予後不良の病態です。診断時の予後は数週間から3ヶ月程度とされており、全脳全脊髄照射や髄注化学療法、水頭症解除のためのVPシャントなどの報告がありますがエビデンスの確立された治療法はありませんでした。

我らの肺癌診療のバイブル「肺癌内科 診療マニュアル」には、全脳全脊髄照射に関しては、こう記載されています。

「全脳照射、全脳全脊髄照射の施行を検討する」(初版 2011年)
「頭蓋外病変が制御可能と判断される場合には全脳全脊髄照射も選択肢となる」(新版 2015年) 

と新しい版では、微妙に表現が異なってきております。

実際、全脳全脊髄照射は身体的負担になるため、根治の見込みがないようであれば行わないか、症状コントロールのために全脳照射(WBRT)に留めることもあるようです。

一方、肺癌診療ガイドライにおける記載はどうでしょうか。

2013年度版より、LMに対する放射線照射の項目が記載されるようになり、そこには「全脳照射は前向きのエビデンスはなく有用性は明らかでない」となっており、最新の2016年度版においても引き継がれております。

2017-02-25

結核性胸膜炎とADA測定

胸水症例では結核性胸水の鑑別が重要です。

米国では、結核は低蔓延国なのでルーチンで測定することはないそうですが、日本では中蔓延国であり、ほぼルーチンで測定するADA(adenosine deaminase)値についておさらいしておきましょう。

ADAには、アイソザイムとしてADA1とADA2がありますが、結核性胸膜炎の時には、T細胞由来であるADA2が増加します。ただし血液成分が溶血すると、それによりADAが上昇するので解釈には注意が必要です。(当院では技師さんがコメント欄に溶血の有無を記載してくれます)

典型例ではADA>40U/Lとなることが多い(American College of Physicians online Oct 28, 2004)ですが、リンパ球優位であることが前提となります。

文献的には、好中球に対するリンパ球の比率が0.75より大きく、かつ、ADA>50U/L とすると、感度88%、特異度95%、陽性的中率95%、陰性的中率88%、診断精度 92%となるようです(Chest 1996;109(2):414)。すごいですね。

しかし、リンパ球優位ではなく好中球優位の症例にも出会うことがあります。

J Leeらによると、結核性胸膜炎と診断が下った353症例のうち24例(6.8%)は、非リンパ球優位の滲出性胸水でADA>40U/Lだったとされます。しかし、肺野の結節影の存在やADAがより高値(>58U/L)がであること、loculated effusion(被包化胸水)でないことがparapneumonic effusionとの鑑別に有用(Infection 2015;43:65-71)でした。

非典型例では総合的な判断が必要なようです。

ちなみに、同じ結核性胸膜炎でも、好中球優位とリンパ球優位の違いが生じる理由は何なのでしょう?

214例の結核性胸膜炎のうち24例(11%)が、好中球優位となり、好中球優位の症例は、リンパ球優位の症例と比べ、抗酸菌検出率が高く(喀痰培養 50% vs 25%;p=0.03、胸水培養 50% vs 10%;p<0.01)、ADAも高値(80 vs 62U/L;p=0.02)でした。また、半数以上の症例で穿刺を繰り返す過程でリンパ球優位に変化していったとされています(Int J Tuberc Lung Dis 2013;17:85-89)。

ということで、むしろ好中球優位ということで、端から結核性胸膜炎を否定するのは危険なようですし、好中球優位の方が病勢が悪そうです。

ただし好中球優位、ADA高値といえば、膿胸が有名ですね。
膿胸の3分の2でADAが上昇するようです。

なお、リンパ球優位に話を戻すと、悪性腫瘍でも上昇することがあります。Cut offを36/Lとした場合、肺癌の9%、悪性胸膜中皮腫の15%でADA増加がみられたそうです(Acta Med Okayama 2011;66(4):259-263)。他には、ピットフォールとして、リウマチ性の胸膜炎、悪性リンパ腫、サルコイドーシスが挙げられるでしょうか。

臨床的には、当然IGRAも参照しますし、非典型例には胸膜生検も行う必要があるでしょう。結核はまだまだcommon diseaseなので鑑別を挙げるのは容易ですが、やはり診断は難しいといったところでしょうか。



2017-02-17

シミュレーショントレーニング開催のお知らせ

当院のRSTでは、毎月勉強会を開催しております。NPPVマスクフィッティング、人工呼吸器トラブルシューティング、鎮静、フィジカルアセスメント、レントゲン読影などテーマは多岐に渡りますが、その集大成とも言える内容のシミュレーショントレーニングを毎年3月に開催しています。今年で3度目となりました。

毎年、フライヤーのレベルがアップして、もはやプロ並みです↓
MEさんありがとうございます。

シナリオの内容もより充実させました。世の中の流れに従いNPPVシナリオも増やします。
あとは、気切管理にも対応できる高性能トレーナーがあるといいのですが…。

2017-01-29

口すぼめ呼吸 のエビデンス

こんなことをやっている場合ではないのですが(ERSの抄録締め切りが…)、ついつい気になって調べてみました。意外と奥が深いのですね。

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COPDでは、肺胞の過膨張と肺弾性の低下により、呼気時の気道閉塞とそれによるair trappingが生じています。口すぼめ呼吸は、呼気流速の減速と陽圧効果により、気道虚脱を防止することが出来ます。原始的ですが、簡便ですぐにでも試せる方法ですので、労作時の呼吸困難を訴えるCOPD患者さんには、是非ともマスターしてもらいたい呼吸法の一つです。日常の動作と同調して口すぼめ呼吸が自然に行えるようになるとよいですね。たまに、こちらが指導する前に自然に身につけておられる患者さんもいて、おぉ!と感心することもありますね。

ちなみに、英語では、「pursed-lips breathing: PLB」と言うようです。

ところで、上述したように口すぼめ呼吸で陽圧効果がある(auto-PEEPがかかる)と言われていますが、具体的にどれくらいの効果が得られるのでしょうか?

「マクギーの身体診断学」にちゃんと書かれていました。

「口唇内外の圧格差 2-4cmH₂O程度 がかかることで、呼気時の気道虚脱の減少につながる」

その結果、呼気終末の残気量が減り、さらに

1回換気量の増加:250ml程度から800mlへ
呼吸回数の減少:約20/minから12-15/minへ 最大40%程度
PCO₂の減少:5%程度
SpO₂の増加:3%程度

このように、各種パラメーターの改善につながります。

参照)
Chest 1992;101:75-78
Am Rev Respir Dis 1966;93:100-106
J Appl Pysiol 1970;28:784-789

2017-01-22

non-resolving pulmonary cavity

2017.1.14
東海呼吸器感染症研究会に参加。

テーマは「non-resolving pneumonia」
今回我々が発表した症例は、言うならば「non-resolving pulmonary cavity」

pulmonary cavityの鑑別を挙げてみる。頻度順に悪性腫瘍、結核、肺化膿症、血管炎…。
多くの場合、鑑別は簡単だ。

ところが、

感染症と悪性腫瘍の鑑別は難しい、とも言える。
殊に肺の孤立性病変に関しては迷うことはしばしばある。

「癌だと思ったら、感染症だった」、これならむしろありがたい。外科的切除したら真菌症や抗酸菌症だったというのはあり得る話。でも、逆ならちょっとややこしい。

感染症だと思って治療し始めたけど抗菌薬が効かない。起炎菌が掴めてなくて抗菌薬不応の時の鑑別なんて山ほどある。だから内科医はツライ。定着菌やコンタミネーションに振り回された挙句、生検しても診断につながる手掛かりがなくて、でもやっぱりまた生検したら、結果的に癌だった。組織診は偽陰性になり得る。けれども組織診がすべてだ。これがTissue is the issueってやつね、となる。

今、自分たちに出来るベストを尽くしても診断に至らない時に、さらにもう一歩踏み込んだり、違ったアプローチを考えなくちゃならない。冷静な分析と粘り強さ、決断力が必要とされるのだ。臨床家といえど一人では迷いが生じる。だから一から客観的に見直してみんなで知恵を絞るカンファレンスは必要なんだなとも思った。

似たような境遇のcaseがここにも... ↓
「A pulmonary abscess, beware of lung cancer!」 Respiratory Medicine CME 2011;4(4):157-159