2018-10-19

アスピリン喘息(AERD) まとめ

    少し前のNEJMにAERDのreview articleが載っていたのでまとめました。(NEJM 2018;379(11):1060-70)
    
    これまで、aspirin intoleranceaspirin idiosyncrasyaspirin-induced asthmaなどと呼ばれてきた背景があり、今でも日本ではアスピリン喘息(AIA)と呼ばれることが多いですが、最近では、アメリカを中心とした諸外国ではAspirin-exacerbated respiratory disease(AERD)、欧州や中東ではNSAID-exacerbated respiratory diseaseと呼ばれているようです。


■歴史的背景


・何千年も前から白柳の樹皮から生成されたサリチル酸に解熱・鎮痛作用があることは知られていた。

1897年にバイエル社がサリチル酸をアセチル化して、より胃腸障害の少ないアセチルサリチル酸を合成、商品名をアスピリンとして1899年より世界中で使用されるようになった。

1922年、Widalらによりアスピリンにより呼吸障害が引き起こされると報告。その他、NSAIDsでも同様の症状が引き起こされることが判明。

1967年、Samterらによりには鼻茸、喘息、アスピリンに対する過敏反応を三徴とする疾患と捉えて報告。



AERDの特徴


AERDの典型的な症状:

暴露時の症状として、上気道症状(鼻閉、鼻漏、くしゃみ)と下気道症状(喉頭けいれん、咳、喘鳴)。稀に(アナフィラキシーと同様の)胃腸症状(腹痛、吐気)や皮膚症状(紅潮、蕁麻疹)などの随伴症状を認めることも。

また、通常、通年性の鼻閉や鼻漏、嗅覚障害を認める。

・疾患の重症度は様々。(上気道がおかされるだけ~リモデリングの生じた重症喘息や重症な副鼻腔炎を伴うことも)

・アルコール摂取により上述したような上下気道症状が出現する。(特に赤ワインとビール) この機序は不明だが、エタノール以外の何かしらの成分により生じるのであろう。



■原因



・発症年齢は30歳頃(つまり後天的)で、発症原因は不明だが、遺伝的な感受性にウイルス感染や大気汚染などの外的要因が加わって発症するのではないかと推察。(実際、約50%の症例は、ウイルス感染契機に発症するともいわれている。)
やや女性に多い。人種差はない。家族性はない。

AERDのうち2/3に何らかのアレルギー素因があるとされる。しかしアレルギーが発症に関与しているわけではないとの見方が強い。



■頻度



・メタアナリシスによると、AERDの頻度は、

喘息患者の7.2%

重症喘息患者の14.9%

鼻茸を有する患者の9.7%

慢性副鼻腔炎患者の8.7%

(Rajan JP et al. J Allergy Clin Immunol 2015;135(3):676-681.e1)




■発症機序



NSAIDsCOX-1阻害作用により、アラキドン酸カスケードのプロスタグランジン(PGs)やトロンボキサンA2(TXA2)産生が抑制され、もう一方の5-リポキシゲナーゼ(5-LO)系にシフトすることで、ロイコトリエン(LTs)産生が増加して、気道収縮を来たす。



■診断方法



NSAIDs使用直後の上下気道症状の出現のエピソードが最も大切な病歴。それに加えCTで副鼻腔炎の存在を確認することが大事。

・確定診断には、アスピリン経口負荷試験を行う必要がある。アスピリン経口負荷試験後24時間の尿中LTE4測定値も診断に有用である。Table2に各病歴や検査所見とその際のアスピリン負荷試験の陽性率が示されている。(例えば、NSAIDs使用後90分以内に呼吸器症状が1度でも出現したことのある人の80%が負荷試験陽性となる)

・諸外国では経口負荷以外にも試薬を変更し経鼻吸入方法なども行っている。

・鼻茸や喘息、副鼻腔炎を有する患者のアスピリン負荷試験の陽性率は20-42%



■治療



・喘息と副鼻腔炎のコントロール(吸入や点鼻ステロイド)が基本となる。上気道症状に対しては、抗ヒスタミン薬やロイコトリエン拮抗薬、経口ステロイド投与、5-リポキシゲナーゼ阻害薬(ジロートン®:本邦未承認)も有用である。

・鼻茸に対しては、外科的治療も行われるが、再発するため、術後3-4週以内にアスピリン脱感作療法を開始することが推奨されている。(脱感作をしないと3年程度でre-opeに、脱感作をすれば9年程度もつ)

COX-1阻害薬の回避を徹底。選択的COX-2阻害薬なら使用は可能。(セレコキシブ:セレコックス®、メロキシカム:モービック®1)


1…ただし、メロキシカムは7.5mgなら大丈夫だが、15mgだと(高用量でCOX-1阻害作用あるため)呼吸器症状引き起こしうると記載あり(本邦におけるメロキシカムの用法用量は111T=10mg、という微妙なところ…)

 

・アスピリン脱感作療法が推奨されている。具体的には、アスピリンを約40.5mgの少量から経口投与開始し、1-3日かけて325mgを目標に増量する2(ただし専門施設での施行が望ましい)

・耐性化が完成したら、325mg~650mg 12回の維持量に移行する。長期的な副作用として、胃腸障害(頻度は15%以下)と皮膚や鼻出血、消化管などの出血傾向が問題となる。



2…本文中に詳しく載っていなかったので、元文献にあたってみました。様々なプロトコールがあるようですが、その一つとして、27mg44mg117mg312mg500mg

1.5hr毎に増量していき、症状の出現および、FEV1のベースラインからの20%低下を陽性と判定するという方法がありました(Swierczyʼnska-Krępa M et al. J Allergy Clin Immunol 2014;134:883-90)




 アスピリンによる脱感作療法については、アメリカの専門施設ではフツーに行われている、的なことが書かれておりました。私は見たことも行ったことも一度もありません。日本の一般病院の呼吸器内科医は正直なところ、ほとんど行ったことはないと思われます。(経口負荷試験も同様に行っていません…)



 で、参考までに、日本での事情は、というと、日本呼吸器学会誌の総説では、「アスピリン脱感作療法も試みられており、上下気道の炎症を改善させる可能性もある。しかし、投与中止数日でNSAIDs感受性が戻ること、喘息症状改善が不十分であること、胃腸障害などの有害反応から、我が国ではアスピリンやNSAIDs長期投与が必要な虚血性心疾患や関節リウマチ合併患者以外に積極的には推奨されていない」とありました。(堀口ら 日呼吸誌 2014;3(2):186-93) 

 やっぱりそうよね、と日本の実情に納得しながらも、どうしてもNSAIDs投与が必要な患者さんには、選択肢になりうるため、頭の片隅に置いておこうと思います。





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