2018-10-06

呼吸器内科医が知っておきたい BPD


DPB(diffuse panbronchiolitis)ではありません、そう、今回取り上げたいのはBPD


ここ数十年間の周産期医療の発達とともに、早産児や低出生体重児の救命率が向上しているのは皆さんご存知の通りです。しかし周産期を乗り越えればその後の経過は問題ないかというと、そうではありません。実は、早産児の成長後に長期的な合併症を生じることが問題となっており、中でも慢性呼吸器疾患を生じることが注目されています。そこで押さえておきたいのが気管支肺異形成(bronchopulmonary dysplasiaBPD)という病態です。



BPD1967年にNorthwayらにより提唱された概念で、当初は、早産児に生じるRDS(respiratory distress syndrome)に対して酸素投与と人工呼吸管理が行われることにより肺の線維化が引き起こされBPDに至ると考えられていました(いわゆるold BPD)(NEJM 1967;276:357-68)。しかしRDS自体の治療や予防が確立され、RDS後に高度の線維化を生じることが少なくなりました。



早産児は、肺胞構造が未完成のまま生まれてくる()ことに加え、RDSに対して行われた酸素投与や人工換気によって生じた炎症性サイトカインにより、出生後の肺胞の発育がさらに阻害され、BPDに至ると考えられるようになりました(New BPD)



実際、病理学的には、肺の発育の中断により中隔形成が障害された大きく数の少ない肺胞や、気道上皮のリモデリング、狭小化が認められるようです(Hum Pathol 1998;29:710-7)



Wongらは、1980-1987年に生まれた1500g未満の低出生体重児で酸素投与を要した21例を長期間追跡しFEV1の低下や気腫性変化が見られることを報告しています(ERJ 2008;32:321-328)。これらはまさにCOPDの病態ですね。


20歳男性、非喫煙者(28週 1355gで出生し生後321日間酸素投与を要した)



25歳男性、非喫煙者(29週 1100gで出生し生後60日間酸素投与を要した)




KojimaらによるとCOPD患者の約0.1%BPDに関連して発症すると推計しています(J Epidemiol 2007;17:54-60)。もちろん、喫煙関連のCOPDに比べると非常に稀な原因ではありますが、若年者で高度の気腫を呈する場合には、呼吸器内科医としては留意しておく必要があるでしょう。また、早産児の発育過程で喫煙の暴露があれば、さらに病態を悪化させる恐れがあるため、社会的には発育環境にも配慮が必要です。



※胎児の肺の発育には時間がかかり、妊娠25~37週頃に肺胞管から肺胞がようやく形成され、37週以降で肺胞が完成し毛細血管のネットワーク構造が発達するとされています。

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