2019-04-11

COPDに生じる侵襲性肺アスペルギルス症(IPA) まとめ

 侵襲性肺アスペルギルス症(IPAInvasive Pulmonary Aspergillosis)は、悪性造血器疾患治療中、造血幹細胞移植後などの高度の好中球減少状態や、長期のステロイドもしくは免疫抑制剤投与中などにみられることのある疾患です。確定診断は難しく、疾患背景と画像所見から疑えば、治療を開始するしかありませんが、依然致死率が高い疾患です。

 近年、免疫不全は高度ではないもののCOPDを基礎疾患として発症するIPAが増えており(Clin Microbiol Infect 2010; 16: 870‒7)、本邦でも症例報告が散見されます。(日呼吸誌 2018;7(1):39-43、日呼吸誌2019;8(2):102-7)


 実際、IPAからみると基礎疾患としてCOPDの占める割合は1.3%とされ、決して多くはないですが、リスク因子の一つになると考えられています。(Clin Infect Dis 2001; 32: 358‒66)

Clin Infect Dis 2001; 32: 358‒66より引用


 COPDに生じるIPAでは、血液領域にみられるIPAと特徴が異なるようです。



 とりわけ、前者をairway-invasive aspergillosis、後者を、angio-invasive aspergillosisと区別して呼ぶこともあります。Airway-invasive aspergillosisでは、菌糸が、(血管でなく)気管支上皮、肺胞壁へ浸潤することにより、小葉中心性結節影、気道中心の浸潤影などを呈します(Radiology 1994 Nov;193(2):383-8Radiographics 2001; 21: 825‒37)

 また、好中球減少の有無も画像に反映されるようで、COPD患者のように好中球が保たれている疾患では、化膿性炎症が強く生じ、多発性の斑状影や浸潤影を認め、壊死による空洞病変を作ることもあります。(Med Mycol J. 2016;57J:J77-J88)

 一方、有名なhalo signは、菌糸の血管浸潤による菌塞栓像を反映したものであり、angio-invasive aspergillosisの方に特徴的な画像で、COPD患者でみられることは少ないようです。



 ここで臨床上問題となるのが、COPDは細菌性肺炎など他の下気道感染も生じやすいために、画像診断だけでは、アスペルギルス感染と通常の細菌感染を鑑別出来ないということです。よって、細菌性肺炎として治療を開始後、難治性であるために真菌検索と同時に真菌をターゲットとした治療を追加する、といったケースが多いと思われます。
 実際、症状出現から診断までに中央値8.5(6-16.5)要しており、結果的に人工呼吸管理や抗真菌薬治療を行ったとしても致死率95%と非常に予後不良です(Eur Respir J 2007;30:782-800)



 では、早期診断のためには、どうすればいいのでしょうか。

 IDSAのガイドラインではBALによる診断が推奨されています(Clin Infect Dis 2016;63:433-42) BALFの培養陽性率はIPA全体で44-77%とさほど高くありませんが、IPAのタイプ別にみると、angio-invasive aspergillosisBALF培養陽性率が20%なのに対し、airway-invasive aspergillosisでは80%と高いので(Clin Radiol. 1998;53:255-7)、抗菌薬不応性の肺炎に対して、低酸素血症が高度でなければ気管支鏡をトライする価値はあると考えます。
 また、BALF中のガラクトマンナン抗原(GM抗原)測定もカットオフを0.5とすると感度96.5%、特異度90.4%と有用です(Clin Infect Dis 2009;49:1688-93)(※ちなみに、原文でBALと記載されていたのでそのまま転記していますが、全例でBALは無理なので、おそらく気管支洗浄と同義であると考えます)

 さらに、airway-invasive aspergillosisでは気管・気管支の潰瘍性病変、結節病変、偽膜形成などを伴っていることもあるので、やはり、気道を直接見るに勝るものはなく、さらに、同部位の生検も診断に有用です。



 その他にも血清学的なβ-DグルカンやGM抗原の感度、特異度ともに良いので、併せて測定を行い、陽性であれば、仮に培養や病理組織学的な裏付けがなくとも、治療を開始すべきシチュエーションは多いと考えます。



             IPAにおける各検査の有用性


GM抗原
β-Dグルカン
感度
81.6%
76.9%
特異度
91.6%
89.4%

(Clin Infect Dis 2015;61:1293-1303より改変し引用)



 なお、いくつかIPAの診断基準が提唱されていますが、そのうちのBulpaらの診断基準を次に示します(Eur Respir J 2007;30:782-800より引用)



proven IPAと診断するためには、生検検体で病理組織学的検査または細胞診で菌糸が確認され、関連部位に組織障害を認めることが必須とされます。


 Probable IPAの診断については、criteriaにより差異があり、EURTC/MSGcriteriaBulpacriteriaICU criteria3つを比較した表を下記に示します(BMC Infect Dis 2017;17:209より引用)。下線を引いた箇所がcriteriaにより異なる所です。

 血液領域においてはEURTC/MSGcriteria(Clin Infect Dis 2008;46(12):1813-21)を使用する機会が多いかと思いますが、COPD患者においては、Bulpacriteriaを用いるのが良さそうです。理由としては、Host factorの項目にステロイドの投与量や期間の指定がないこと、Clinical dataの項目に特異的画像所見が入ってないこと、などから各項目を満たしやすく最も診断率が高いからです。




 なお、 論文中に修正Bulpa criteriaも提示されています。

BMC Infect Dis 2017;17:209から引用

 元のBulpaEURTC/MSGを足して2で割ったような項目が並びますが、宿主因子には吸入ステロイドの使用が含まれたり、画像では非特異的な所見も含まれたりと、COPD患者が該当しやすいよう工夫されています。



 と、色々述べていると、かつて亡くなってしまった難治性肺炎の患者さんの中にもIPAだった方がいたのではないか、と思い返されます。症例報告の多くは剖検で初めて診断されており、COPDに合併したIPAの診断の難しさを改めて認識するとともに、IPAに特徴的な画像所見がなくとも早期診断を試みて早期治療につなげることが大切なのだと感じました。

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