2019-05-21

結核 初期悪化 まとめ


最近結核の初期悪化で重症化した症例を経験したので、初期悪化についてまとめてみようと思います。個人的には、はっきりと「初期悪化」と認識できたのは初めての経験でした。ただし、当科では、過去に、多発する脳病変の出現をみた初期悪化症例を学会報告しております。



まず、用語の整理ですが、「初期悪化」は、直訳するとinitial aggravationですが、他にparadoxical reactionparadoxical worseningとも呼ばれています。


結核予防会 結核研究所のホームページの新 結核用語辞典によると、「肺結核の治療開始後,喀痰中の結核菌は減少あるいは陰性化しているにもかかわらず,胸部X線写真上陰影の増大,新陰影出現,胸水の出現,縦隔あるいは頸部リンパ節の腫脹・増大などの所見がみられる現象をいう。初回治療患者にRFPを含む化学療法を行った際ときに見られ,発現時期は治療開始後3カ月以内が多い。強力な化学療法により,急激に死滅した大量の結核菌の菌体に対する局所のアレルギーによるとの考えが支持されている。通常,同じ化学療法の継続で36カ月後に改善を見る。」とあります。



まあ、ほんとこのまんまなんですよね。だから、今回はコピペして終わり、って訳にもいかないので、もう少し掘り下げておきましょう。



発現頻度は1-33%と報告により幅があります。

発症時期は上述のように抗結核薬治療開始後、多くは2週間~数か月以内とされますが、数日で発症することもあるようです。



では、どのような患者に初期悪化が起こりやすいかというと、Chengらの報告では、Non-HIVの結核患者における初期悪化のリスクファクターは、Hb減少、Alb低下、BMI低下、リンパ球数減少、治療開始後のリンパ球数の急激な上昇、としています(Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2002;21:803-809Int J Tuberc Lung Dis. 2007;11:1290-1295 )。リンパ球数以外は、高齢者結核で大抵揃っていそうです。



初期悪化を疑った際に、鑑別に挙げなければならないのが耐性結核の存在です。といっても、日本では、初回治療のうちINH耐性が4%、多剤耐性が0.4%と頻度は少ないので(結核 2013;88:749-756)、治療中に画像が悪化した場合は、まず感受性結核における初期悪化と考えてよいでしょう。外国人結核では、多剤耐性菌の割合がもう少し高くなるので(中国で6%、フィリピンで4%)注意が必要かもしれません。



なお、時に、初期悪化による呼吸不全で致命的な状態となり、細菌感染の合併?耐性結核?薬剤性肺障害?ARDS?なんなの??みたいなシチュエーションがあると思います。(今回の症例がそうでした) 特に、耐性結核や薬剤性肺障害については、マネジメントが大きく変わるので、画像である程度鑑別出来ると助かります。



初期悪化 vs 耐性結核



初期悪化では元病変が増大することが多いですが、縮小していることもあるようで、必ずしも元病変のサイズ変化だけでは判断できなさそうです。

Akira Mらの報告では、初期悪化のHRCT所見の特徴として、「元病変の周囲もしくは離れたところ(多くは胸膜直下)のすりガラス陰影もしくはconsolidation」を挙げており、一方、結核の真の悪化時には、「新らたにtree-in-bud appearanceや空洞を伴う病変の出現」を挙げています (J Computo Assist Tomogr. 2000;24(3):426-431)



初期悪化 vs 薬剤性肺障害



上記に挙げた初期悪化の特徴の一つである、「元病変と離れたところのすりガラス陰影」ですと、薬剤性肺障害との鑑別が難しくなります。ちなみに、抗結核薬による薬剤性肺障害は、薬剤性好酸球性肺炎タイプ(胸膜直下のconsolidation)のものが多いとされます。しかし、びまん性のすりガラスや小葉間隔壁肥厚やHPのような小葉中心性粒状影もあり、ああ、やっぱり、薬剤性肺障害って難しいなぁってなります。



初期悪化と診断した場合の対応



初期悪化と診断しても全身状態が良好であれば、抗結核薬を継続の上、経過をみまもります。ただし、高熱の持続、胸水増加による呼吸不全、リンパ節腫大による気道狭窄、中枢神経病変の出現などにより、全身状態が悪化している場合は、ステロイドを使用することもあります。急激に死滅した大量の結核菌の菌体に対する過剰な免疫反応を抑えるためのステロイドです。うーん、結核に、ステロイド…ためらいますよね。ステロイドの導入基準や投与量、投与期間については、明確なものはありません。エキスパートオピニオンですが、プレドニンを1/kgから開始して1-2週間後に徐々に減量していくようです。ステロイドの匙加減に関しては、患者さんの状態をみながら決めるしかなさそうで、経験がものをいいそうです。



ということで、初期悪化、今後は慌てず対処できるようになるといいですね。





参考文献:

結核予防会 結核研究所 ホームページ https://jata.or.jp

結核 2011;86(2):87-99

BMJ Case Reports 2012;doi:10.1136/bcr-03-2012-6142

0 件のコメント:

コメントを投稿